モーツアルトを核にして その5

昨日は、ハイドンの確立したソナタ形式と、その一番の応用例である交響曲について書きました。ハイドン交響曲を104曲も残しています。交響曲をこれほど大量生産した作曲家は、最初で最後でしょう。この連載の中心はモーツアルトですので。ハイドンモーツアルトとの関連性を書きましょう。モーツアルトハイドンはほぼ同時代の人と言っていいでしょう。ハイドンのほうがちょっと先輩です。ハイドンモーツアルトは、互いに理解しあい、尊敬しあっていました。ハイドンは、若い新進気鋭の作曲家であるモーツアルトを応援し、さらに尊敬すらしていました。また、生意気なモーツアルトも、ハイドンには敬意を示し、ハイドンのために弦楽四重奏曲を複数曲セットにして、ハイドンに捧げています。そう、弦楽四重奏というのも、ハイドンが確立した形式で、ここでもソナタ形式は重要な役割を果たします。一方、彼らよりもう少し後輩のベートーベンは、ハイドンのことは非常に尊敬していますが、モーツアルトのことはほとんど評価していません。また、モーツアルトもベートーベンのことは大して注目もしていませんでした。ということで、モーツアルト、ベートーベンの両方に尊敬され、またよい関係を保ったのがハイドンなのです。これだけの偉大な作曲家でありながら、モーツアルトやベートーベンのような破廉恥なところが一つもない紳士、人格者、それがハイドンです。これじゃー天才の話としても面白くもなんともありません。

ハイドンは、宮廷につかえる役人のような作曲家で、質素倹約を旨として、貯金をコツコツとしていました。本当にまっとうな人でした。しかし、悲劇があるのです。このハイドンの妻の「アロイジア」こそ、音楽史上最大の悪妻と言っていいでしょう。妻は、夫がどんな仕事をしているかもよく知らず、夫の書いた楽譜で食器をふいたり、ごみ箱に捨てたり、そんなことばかりしていたようです。要は楽譜が読めないどころか、音楽が全く分からなかったようです。これだけ多作のハイドンですが、実はもっとたくさんの作品があったのではないか?と疑われているようです。そして、さすがのハイドンもかなり浮気をしていたようです。ではなぜこんな人と結婚したのか?これがまた面白いです。

ハイドンは、はじめアロイジアの妹が好きだったのです。でも妹はすぐに修道院にはいってしまい、結婚できなかったのです。そこでまあしょうがないか、といって結婚した姉さんのほうがアロイジアでした。うーん。モーツアルトのファンならばどこかで聞いたことのある話ではないですか?そう!モーツアルトの結婚話。モーツアルトは、はじめ「アロイジア」という女性が好きでしたが振られたため、その妹コンスタンツェと結婚したのでした。ハイドンとちょうど逆ですね。もちろんこの2人のアロイジアは別人です。きっと会うたびに、この男どもは悪妻話に花を咲かせたことでしょう。
モーツアルトは、金を散在しましたが、ハイドンは倹約家で貯金が大好き。しかし、ハイドンのほうが長生きして、フランス革命とナポレオンの戦争によりインフレがおこり、この貯金もパーになってしまうのですから、音楽家は頑張ってもビンボーなんですかねえ。

ハイドンがロンドンに渡るとき、モーツアルトに一緒に行ってもう一旗揚げないかと誘います。しかし、モーツアルトは妻の体調不良のため、断り、ハイドンに別れの挨拶をします。モーツアルトが泣きながら「もう会えないかもしれない!」といって別れを惜しんだそうです。ハイドンのほうは、僕が年上だから、僕はもう大陸に帰ってくることなく、イギリスで死ぬのかなあと不吉に思ったそうです。しかし、二人の不安は的中します。ハイドンのロンドン滞在中に、モーツアルトは死んでしまうのです!ハイドンは、帰国してから、とても無念に思い、僕がウィーンにいればこんなことにならかったかもしれないと大変後悔したそうです。

ハイドンモーツアルトとベートーベン。そして、ベートーベン以後、ドイツでは、シューベルトメンデルスゾーンシューマンブラームス、そして、ヨーロッパ各地で、チャイコフスキープロコフィエフドヴォルザークシベリウスショスタコーヴィッチ、マーラーブルックナーといった偉大な作曲家たちが、それぞれの風土にあった交響曲を作曲したのでした。まさに、交響曲の父、ソナタ形式の父、大きな音楽構造の父。そうした大きな発想が大好きな懐の深い大きな人物がハイドンだったのです。

こんな真面目なハイドンも、交響曲の中では、茶目っ気をたくさん発揮します。「びっくり」では、第2楽章のゆっくりのところでご婦人たちが眠ってしまうので、大音のティンパニーを一発かましてやるとか、「告別」では、殿様の別荘に連れられてきた楽団員たちのホームシックを訴えるため、最後の楽章では、団員が一人ずつ舞台を去っていき、最後は、ヴァイオリン一艇だけで終わるとか。。。とにかくユーモアやウィットに富んだ人でした。

つづく


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モーツアルトを核にして その1
http://d.hatena.ne.jp/masanori-yumoto/20110723/1311447808