「キャズム」を越えていくApple

新技術が普及していく過程で、乗り越えなければいけない「谷」があります。それを「キャズム」と呼びます。ジェフリー・ムーアが提唱して注目を浴びました。
イノベーションとは、新技術の開発とその普及であると私は思っているので、イノベーションのために必ず乗り越えなければいけないのが「キャズム」ということになります。

さて、新技術を搭載した新製品が、ユーザに採用され、世の中に広まっていくプロセスは、5つの段階に分かれるといわれています。
1.「イノベーター」が採用するフェーズ
2.「アーリーアダプター」が採用するフェーズ
3.「アーリーマジョリティ」が採用するフェーズ
4.「レイトマジョリティ」が採用するフェーズ
5.「ラガート」が採用するフェーズ
これは、エベレット・M・ロジャーズに基づく考え方です。

ムーアが指摘したのは、2と3、つまり、もっとも早く新製品に飛びつくマニアの世界から、世の中の新製品好きが買い始めるところの間にある、非常に大きな谷です。この谷を「キャズム」と呼びました。

私は、「IT革命」の真っただ中を生きています。IT製品が普及する中で、キャズムをいつも越えていく役割を担っている企業は、Appleだと思います。そして、その主である、スティーブ・ジョブズこそ、キャズムを越えていく人物です。今までそうでしたし、これからもそうなのかもしれません。

■ パーソナル・コンピュータ
パーソナル・コンピュータの普及に、Appleの個人用コンピュータである、Macintoshの果たした役割は大きいです。私も、大学院時代使っていた個人用コンピュータは、Macでした。Netscape(現Firefox)のブラウザを搭載したコンピュータを使ってインターネットを楽しみました。Windows95が出てきて本当に世の中にパーソナル・コンピュータが普及したと思いますが、その先鞭を切ったのは、やはり、Macでしょう。パーソナル・コンピュータのアーリーアダプターから、アーリーマジョリティへの谷を乗り越えたのは、Appleでしょう。

■ スマート・フォン
スマート・フォンの普及に貢献したのは、やはり、iPhoneでしょう。これも、パーソナル・コンピュータのときのMacと同様の役割を果たしているといえるでしょう。

そして、Appleの後を追って、さらに市場を拡大させたのが、PCの場合はMicrosoftWindowsであり、スマート・フォンの場合はGoogleAndroidでしょう。

しかし、日本企業でも、過去にキャズムを超えた会社は、たくさんあると思います。たとえば、

■電卓のCasio
■携帯音楽再生機では、SonyWalkman
■携帯電話のインターネット機能では、NTT docomoi-mode
■個人用ゲーム機のNintendo

などなどです。いずれも、現在のパソコンと関係が深い、IT技術でしょうね。日本の企業は、イノベーションが起こせない、とか、キャズムを越えられない、というのはうそだと思います。いつも日本人はあまりに自分のことを謙遜しすぎると思います。残念なことです。

そんな中でも、2つのキャズムを越えていったAppleに学ぶことは多いでしょう。
そして、Appleのライバルでありながら、そのAppleの技術をさらに普及させるために、市場の研究をして、ビジネスモデルを考え、実行してきた企業、MicrosoftGoogleに日本人が学ぶことは、たいへん多いと思います。
市場を拡大するためにライバルとなった、MicrosoftGoogleのような、アシスト的ライバル企業が日本の場合には少ないのでしょうね。インターネット検索の先鞭がYahoo!であるとすれば、Googleはさらにそれを越えていきました。Googleは、スマート・フォンで2回目のアシスト的ライバル企業となったのかもしれません。

日本に本当に必要なのは、イノベーション企業ではないと思います。
真に必要なのは、イノベーション企業の市場拡大を助けるアシストであり、かつシェアを争うライバル企業、MicrosoftGoogleのようなアシスト的ライバル企業の存在ではないでしょうか?