視覚情報を通じた人間の他者認知プロセス

昨日、日産財団認知科学シンポジウム 「人と機械のつながりと未来」に出席いたしました。

日産財団認知科学シンポジウム 「人と機械のつながりと未来」
http://www.nissan-zaidan.or.jp/sympo/sympo110319.html

中心は、視覚情報を通じた人間の他者認知能力でした。

視覚情報は、人間の眼を通じて入ってきた光による情報をもとに得られます。光は、網膜に「逆像」を描き、それを脳が処理して、人間は他者を認識します。

さて、物理学者の考えだと、光を網膜で検知したときには、熱揺らぎがあまりに大きく、正しい像は到底得られないという結論に達します。これは、東京大学理学部在学中に、量子光学の小林孝嘉先生がよくおっしゃっていました。計算上、網膜の像はかなりぼやけてブレが大きく、よくこれでものが見えていると不思議な感じがすると、いうことでした。


しかし、この疑問も、このシンポジウムで何となく解決できた気がします。人間は、ものを見るとき、かなり「パターン」で認識しているのです。たとえば、人の顔たと認識したとき、まず顔の形や顔のパーツの配置の「ひな形」を頭に思い浮かべ、それを詳細化していくようなのです。


ひとつ、私たちがパターンがあるから詳細を区別できる例をあげましょう。これは、このシンポジウムでも紹介された例で、「倒立の顔認識」とよばれているようです。
下の写真をご覧ください。


イギリスのサッチャー元首相のお顔が2つ並んだ写真が2組あります。どちらの組みも同じ写真ですが、上下がさかさまになっています。2つの写真のうち、片方は「変顔」です。しかし、上下がさかさまになった写真の場合、「変顔」と認識するのがとても難しくなっています。なかなか「変顔」と思えませんし、さらにどこが変かを指摘するのは、上下がさかさまだとかなり難しいです。
つまり、まず顔を認識して、その上下が正しい顔の配置のパターンがある程度認識されて、そこにパーツを当てはめて、「視覚情報による認知」を行っていると想像できます。顔の上下がさかさまになっただけで、変顔がわからなくなるなって、衝撃でした。


このような感じの、ご講演をはじめ、目の錯覚(錯視)のご発表などがあり、とても興味深いものでした。我々の眼で見ていることは、かなり先入観に依存した「いい加減」なものなのですね。


世界地図も上下がさかさまになると途端にわからなくなる例がよく書籍にも出ています。



このシンポジウムの基調講演は、原島博先生のお話でした。シャノンに情報理論に始まり、意味的情報論、ネットワーク外部性によるネットワークの価値(つながることに価値がある)、情報量ゼロの通信(つながっていることの確認)などのお話もあり、これはとてもチャレンジングなお話でした。私の考えている、syntac情報量とsemantic情報量、そして情報をやり取りする基盤のネットワーク価値を統合的に把握する量の考察とも非常にかかわりが深いようで、私も勇気をいただきました。


情報と認知(認識)の研究はとても面白く、これからがさらに楽しみです。


※ PV数が 10000を越えました。ありがとうございます。