ものづくりとジョブズ

日本は「ものづくり」の国と言われてきました。すばらしい技術を持ち、消費者を喜ばせる、品質の高い製品を作ってきたと思います。特に、ソニーに代表される、携帯型デジタルメディアは、世界の羨望でした。おそらく、ジョブズにとってもそれは同じで、彼は、ソニーなどを見て、素直にいいなあ、私のあのような製品を作りたいと思ったに違いありません。


さて、日本での「ものづくり」の考え方が進化しなかった理由として、明治以降の日本が、「職人」と「工場のラインに並ぶ人」を両方とも「ものづくり」の枠でくくってしまい、同じような教育をしてしまったことだと私は思っています。たとえば仕立て職人は、依頼してくる客の要望をよく聞き、それにこたえるために腕を振るい、客の喜ぶ服を作ります。しかし、そういった服をコピーして大量生産する工場のラインに立つと、ひたすら機械の相手をして、客の顔など見ることもありません。これが、職人と工場のラインの違いです。


ジョブズは、職人でアップル社の製品をデザインする人であったと思いますが、決して、アップル社の製品の工場のラインで作業をする人ではなかったのです。


職人にとって大切なことは、想像力や妄想力でしょう。人間は自分の頭でイメージできないことはなかなか実現できないものです。想像力や妄想力が創造力につながるのです。また、それを独りよがりの妄想で終わらせず、つねに試作機を作って、自分で使ってみる。そして人の意見を聞いて取り入れ、改善する。こうすることによって、妄想をみんなと共有することにより、妄想を現実とする。こうした力が、創造的な仕事につながるのでしょう。
一方、工場のラインでこんな妄想をしていたら事故のもとになるだけです。もし工場のラインで働いているのであれば、終業後に妄想しないといけません。時間がないのはむしろ幸いで、時間がなくても自分の時間を削ってでも実現したくなるようなワクワクした夢を追い続けることが創造力の源になるのだと思います。



明治以降の日本の教育は一定品質の「工場のラインできっちり仕事ができる人」の育成で大成功を収めました。しかし、「職人」の教育がおろそかになっていたのではないでしょうか?幸い、いま、私は大学に所属しています。時間を少し作ってでも、この問題を解決するように努力したいと思います。


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