ブドウの圧搾機と情報技術(IT)

http://www.amazon.co.jp/dp/4884123298
医療情報 医療情報システム編 新版 [単行本]
日本医療情報学会医療情報技師育成部会 (編さん)
8.2 医療情報学における研究の方向性 (大江和彦)

大江先生に、御著のレクチャーをいただきました。
医療情報学の研究とは何か、という大変難しいテーマについて論じられています。さらに、研究とは何か、研究と改善や改良とはどこが違うのか、という根本的な考察にまで至っていることに感銘を受けました。

その中の、「応用研究が発見する未知の事実とは?」という部分で、次のような文章がありました。

「当初の開発意図した用途とは異なる利用の仕方によってその技術や工業部品が開発時には想定されていなかった役割を果たすことを発見すれば、これは情報技術にとって未知の発見といえるかもしれない。」

私は、この部分に非常に共感をいたしまして、印刷技術における、圧力の役割について、簡単に述べさせていただきました。

医療情報の目的の一つが、正しい医療知識の普及です。さて、知識の普及といったときに、歴史上、たいへん大きなマイルストーンとなったのが、グーテンベルク活版印刷の発明です。この活版印刷の普及により、聖書が市民に普及して、宗教改革が起こったといわれています。
http://ns.aid.design.kyushu-u.ac.jp/sotsuken08/abstract/1DS05209Y.pdf
グーテンベルクが、この印刷術を実現して、大量に印刷するために必要だったのは、圧力(Press)の技術であったそうです。印刷機が印刷用紙にかける圧力が十分でないと、大量に、早く、きれいな印刷が、実現できないそうです。そこで、グーテンベルクが、圧力機として、採用したのが、ワインを作るためのブドウの圧搾機でした。ブドウの圧搾機を改良して、印刷機の圧力を実現したのです。これにより、大量に早く印刷することが可能になったそうです(注)。

つまり、極端な言い方をすれば、「ブドウの圧搾機の圧力技術が、情報の普及に役立った」のです。そして、この圧力(Press)が印刷技術、さらに、印刷の総称となりました。印刷技術を使って、情報を伝達する新聞や雑誌の記者さんたちが集まる部屋を、Press Roomと呼ぶのもこれが語源でしょう。

これを現代に当てはめると、どんな技術が、情報の伝達に役に立つのでしょうか? ブドウの圧搾機のように、意外なものなのでしょうね。


(注)
このへんのお話は、産業技術総合研究所の和泉憲明先生から初めて伺いました。感謝いたします。
その後、情報処理の3月号にメディアの記事を書かせていただいたときに、いろいろと調査して詳しいことを知りました。
http://www.bookpark.ne.jp/cm/ipsj/mokuji.asp?category1=Magazine&vol=52&no=3