ケインズ経済学と奈良の大仏

不景気になると、公共投資によって景気を回復させようというお話がよく出ます。
イギリスの経済学者ケインズの時代も不景気だったらしく、「雇用、利子、貨幣の一般理論」で、公共投資が不況克服の一手段であることを示唆しているそうです。これを実践したのが、アメリカのニューティール政策だそうですね。

そこで、この公共投資について考えてみたいと思います。公共投資とは、簡単に考えれば、国家の財産を大きな事業に投資して、国民のためになる社会を実現することだと思います。この公共投資の経済学的な機能面だけを考えると、国家は「国民の負託を受けた投資信託」の機能を果たしているのではないか?と仮説が立てられるのではないでしょうか。「国家が、徴税により巨額な資金を集めて、よりよい世の中を実現するために事業に投資する」ことが公共事業なのだと思います。

そう考えると、世界経済にとって、国家は大きな資本家であり投資家であると考えられないでしょうか?そして、その国家という資本家の機能は、「国民にとっての一番頼りになる投資信託の依頼先」という機能になると思います。いままでは、この機能を銀行や信託銀行といった金融機関が果たしてきましたが、実は国家こそが、最大の金融機関であるのだと私は考えています。ですから、国家は、どのような世の中を実現するのかというビジョンを国民に提示して、それに国民が共感して税金を払い、それを元手に国家は事業に投資して、よりよい世の中を実現させるということが、理想ではないでしょうか?

さて、資本家が事業に投資して経済が成り立つ資本主義経済は、そもそも、最先端の大きな機械を買って工場を作り、工業を発展させるために重要な経済構造だったといわれます。機械を買うには、高額な資金が必要であったので、そのために大きな資金を持った投資家が活躍したのでしょう。資本主義経済では、一度にたくさんのお金を投資する機能が重要な役割を果たしているのです。その機能を国家に求める考え方が、公共投資ではないでしょうか?

こう考えると、資本主義にしても共産主義にしても国家が巨額の資金を運用している世界の中の経済システムである限り、公共投資の考え方が理解できるのではないかと思います。

ところで、日本では、奈良時代に大きな災害が続いたり、飢饉が続いたりして、国の経済状態が悪くなり、国民の生活が苦しくなります。そこで、聖武天皇が、奈良に大仏を作り、国家の平穏を祈ったそうです。その際、多くの国民が労働力を提供したり、税を納めたりしたそうです。そしてある程度国家の状態は好転したようです。
これこそ、国家が自分の大きな資産を一気に投じた公共事業と言えるのではないでしょうか?

冒頭で述べたケインズの一般理論には、「アニマル・スピリット」という言葉が出てきます。人間は、未来に希望がないと積極的な経済活動ができないのです。一般理論で、ケインズは数学を用いて、かなり厳密な経済理論を展開していますが、この「アニマル・スピリット」の効果は数式になっていません。理論化するのはかなり難しいのでしょう。
けれども、国家により一度に巨額の事業投資がなされれば、国民も奮い立つのではないでしょうか?そして、そのような巨大投資ができるのは国家しかないのです。国民の気持ちを前向きにすることが公共投資の一番の効用ではないでしょうか?