情報革命と金融危機

前回は、技術の中でも「てこと滑車」という効用を大きくする仕組みを交通手段に適用した歴史について考えました。交通手段は、人を運ぶ手段ですが、もちろん物流の手段にもなります。そういう意味で、潜水艦のような海中海底の交通や物流が今後面白いのでは?と書きました。


しかし、現在、一番面白いと思われている技術は、やはり情報通信技術でしょう。インターネットやWebの発達により、経済が発展した時期もありました。IT革命だったのか、ITバブルだったのか?は、私の関心事ではありませんが、とにかく、ICT(Information Communication Technology)が世界に与えた影響はまさに「革命」といえるでしょう。私はこの時代にこのICTに関わる仕事をしていることに誇りをもっていますし、幸せなことだと思います。


冒頭に書いた交通物流と、情報通信の大きな違いは、交通物流が物理的なもの、重さや大きさのあるものを運ぶのに対し、情報通信は、文字や数字、文章、絵や音楽といった、重さも形もないものです。相対性理論も持ち出すまでもなく、交通物流は、速さをそれほど大きくすることができませんが、情報は、光の速さで伝えることが可能です。情報は、それ自体は単独で存在することはできず、何らかの媒体(メディア)があることによって存在することができます。たとえば、紙とインクをもとにして「本」や「新聞」などの媒体ができます。そしてその「紙媒体」を運ぶことによって情報を伝達します。電子化した情報を、磁気媒体に記録蓄積し、電信や電波によって伝達する現代社会。このように情報の媒体には、蓄積・記録する媒体と、伝達するための媒体が必要です。現在では、電子化により両方を共通の基盤に載せることで、大量の記録されたデータを瞬時に世界中に伝達できるようになったのです。

もう一つ、情報科学の進展で忘れてならないのが、計算や演算の技術です。正確に繰り返し高速に計算ができる機械であったコンピュータでしたが、現在では、蓄積・記録の媒体を併せ持ち、さらに、インターネットやWebといった伝達媒体とつながり、驚くほど人間の脳による情報処理に近い処理ができるようになりました。ところで、これらは多くの人々の研究によって成し遂げられたものですが、人間とコンピュータの実用的なインターフェースだけは、ジョブズという一人の天才によってほとんどが整備されました。これもまた驚くべきことです。


計算、情報の蓄積、伝達を一番最初に必要としたビジネスは金融や会計経理といった分野でした。今まで人間にとってとんでもなく厄介だった、金融・会計・経理は、多くの部分をコンピュータに任せることにより、飛躍的に正確に高速に処理できるようになりました。今のような企業の成長には、企業内の会計や決算のコンピュータによる高速化が不可欠だったでしょう。金融システムがこれだけ巨額のお金を動かせるのは、やはりコンピュータのおかげでしょう。現在では、株の取引きまで、コンピュータが自動的に行う時代です。
瞬時に大量のお金が動くようになったのです。こうなると、人間の頭(判断力)が本当に追いついて行っているのでしょうか?また、ミクロ経済に教えるところによると需要と供給とのバランスで取引する価格が決まるというのですが、本当にバランスするほどゆっくりとは変化していないでしょう。瞬時瞬時の急激な変化の中でバランス状態は出現していない可能性があります。従来の経済や金融の理論が成り立たなくなりました。特に、金融では、確率のような不確定な要素を扱う理論ができ、金融工学が発達して、「神の見えざる手」ではなく、「神の振るサイコロ」に将来をゆだねることになってしまったのです。

こうなった原因の一つ、それもかなり大きな部分を占める原因に、現在の計算機・情報・通信の技術の発達があるのでしょう。

ものの移動と情報の移動、つまり、交通物流と情報の流通の速度が桁違いに大きく異なったことが、今の経済や金融システムの不安定化につながっていると感じでいます。


計算・情報・通信技術の発達は、経済や金融の成長に不可欠のものでありました。しかし、今では、人間や物流といった現実の世界の動きと比べ桁違いに大きな速度で、計算・情報・通信が処理されて、経済・金融システムが不安定になっています。自らの成長を支えていたものが、自らの崩壊を招くことは、システムの中では珍しいことではありません。安定化のためには、もう少し「ゆっくりした流れ」が必要なのかもしれません。


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