モーツアルトを核にして その2

さて、話を7月23日の続きである、モーツアルトにもどします。

モーツアルトというのは常に注目されている作曲家ではありますが、私が特に印象に残っているのが、映画「アマデウス」です。私は映画を見る趣味があまりないのですが、この映画は映画館で観ました。面白くて面白くて。モーツアルトは、筆まめで、手紙をたくさん残していますが、その手紙を読むと、彼のキャラクターがよくわかります。まさに「アマデウス」のモーツアルトは、この手紙の主のモーツアルトを完璧に具現化したといえます。



さて、この映画「アマデウス」の主人公は、同じくウイーン・ハプスブルク家の宮廷作曲家、アントニオ・サリエリです。当時、ウィーンは音楽後進国であり、音楽の本場イタリアからお雇い外国ミュージシャンを宮廷に招いていました。その外国お雇いミュージシャンの頂点に立っていたのがサリエリです。もちろん、グルックモーツアルトのような国粋作曲家との対立はあったと思います。しかし、サリエリは非常に優秀な作曲家でしたし、またここがモーツアルトと違うところですが、一流の音楽教育者でした。彼は、音楽活動の一環として、貧しい人たちのための音楽教室を開くなど、音楽の普及にも大きな貢献をしました。彼の弟子には、ベートーベン、シューベルトがいるという事実からも、彼が優れた音楽教育者であったことがわかります。ベートーベンの弟子には、チェルニー、さらにチェルニーの弟子にはリストがいることを考えると、サリエリ学派がその後成功を収めたことがわかります。ベートーベン、チェルニー、リストというピアノの系譜がこちらで栄えたと考える一方、交響曲の巨大な流れも、ベートーベン、シューベルト、そして、それを越えることに挑戦したシューマンとその弟子ブラームスであることを考えると、実に豊かな世界の基礎を構築したかがわかります。
それに比べてモーツアルト学派の後継者は、レクイエムの補作者ジュスマイヤー、トランペット協奏曲が有名なフンメルくらいしか思いつきません。さらに面白いことに、モーツアルトの息子は、母コンスタンツェの考えで、サリエリに弟子入りしています。モーツアルト学派はその後直接的な後続を立ち上げられなかったようです。ただ、やはりモーツアルトのオペラの魅力は大変なものがあります。妻コンスタンツェのいとこであるウェーバーはオペラ「魔弾の射手」で、キャラクターミュージックの手法を取り入れます。メロディーで人物や情景がまざまざと浮かび上がるのです。そして、この手法を大成させたのがワーグナーです。間接的にですが、オペラの流れは、ウェーバーそしてワーグナーへと引き継がれたように見えると思います。



モーツアルトの死後、サリエリにとって不幸だったことは、彼の音楽がどんどん忘れられてすたれていくのに対し、モーツアルトの音楽はどんどん有名になり、隆盛を極めていったところです。また、自分の弟子である、ベートーベンやシューベルトが素晴らしい成果を挙げていったことです。老人によくあることですが、若い才能への嫉妬ですね。彼が無名の老人であれば、このような醜態が後世に残ることもなかったと思いますが、残念ながら、ベートーベンのような偉大な作曲が弟子であったためか、このような醜態まで後世に残ることになってしまったのは、サリエリにとって負の遺産となってしまったようです。




その一方、モーツアルトの未亡人コンスタンツェのマネジメント能力はすばらしいものがありました。モーツアルトの崇拝者であるニッセンというデンマークの外交官と再婚します。そして、彼とともに、モーツアルトの初の伝記を出版するのです。素晴らしいと思いませんか?そして、モーツアルトの作品をきちんと管理し、後世に引き継いだのです。コンスタンツェは、生前のルーズにより悪妻と言われますが、これは、モーツアルト自身がルーズだったためでしょう。ある意味、自分はきちんとした性格なのに、夫にストレスを与えないように自分もルーズにふるまったとも考えられます。そのような考えに立つと、良妻とされているシューマンの妻クララのほうが悪妻に思えてしまいます。ピアノ曲に専念していたシューマンに、交響曲を書かなければ本当の作曲家ではないとアドバイスをして、シューマン交響曲の作曲に駆り立て、それで、自分の才能のなさに絶望したシューマンは精神病になり死んでしまいました。それをそばで見ていたブラームスが必至の思いで交響曲を作曲したのもわかる気がします。結果としてクララは大いに音楽の成果に貢献しますが、シューマンの楽譜に勝手に手を入れてよりよい音楽としてしまうところなどは、生身の男としては、なかなか耐え難いものがあります。


つづく

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モーツアルトを核にして その1
http://d.hatena.ne.jp/masanori-yumoto/20110723/1311447808