まとめて提供するパッケージ化の力と仕事力

昨日は、AITC(先端IT活用推進コンソーシアム)http://aitc.jp/ の1年目の集大成である総会が開かれました。多数の方のご来場をいただき、ありがとうございました。この1年は、AITCの活動をどういう方向に持っていくかという議論から始めなければいけませんでした。昨日の総会で、副会長の田原春美さんから、「先端IT技術をまとめて、大きな社会基盤を作る。本会で扱っている技術を見ると、フロントエンド層の、ビジネスAR、ネットワークデバイス、バックエンド側のクラウド、そして全体の構想としての、コンテキスト・コンピューティング、これらを集めると社会のシステム基盤ができる。そしてこれが、本来のシステムインテグレーターとしての仕事ではないか。その活動の中心的な場にAITCがなる。」というすばらしい「まとめのお言葉」をいただきました。私もそういう方向で頑張っていきたいと思います。


さて、先日亡くなったジョブズは、こういった大きな社会基盤のインテグレータではなかったとは思いますが、(もちろんそういったおおきな設計をしたとしても天才だったと思いますが。)個人用端末という、まさにITが日常生活に浸透するのに必要なシステムのインテグレータとして抜群の才能を発揮しました。ハードからソフト、そしてデザインまで、この世に存在する抜群の技術の粋を結集して、MacintoshiMaciPodiPhoneiPadを作ったのだと思います。彼の、技術に関する豊富な知識の力、そしてそれを用いて優れたシステムにまとめる力、この2つはまさに、システムインテグレーションの力です。


また別な話になりますが、一昨日、東京大学安田講堂で、ハーバード大学のロバート・レヴィン氏のモーツァルトのお話がありました。
http://www.k.u-tokyo.ac.jp/mozart/
モーツァルトは、なぜ天才だったのか? 結論は、彼がヨーロッパ中の音楽を知りつくし、それを、各階層、各地域の聴衆に合わせてまとめあげ、提供したからだそうです。そして、そのパッケージ化した作品を演奏するとき、場所、時間、聴衆が誰かによって、違う演奏をしたそうです。ですから、彼自身も同じ演奏を再現することができなかったそうです。 レヴィン氏が、モーツァルトは最高の料理を提供するシェフのようだ、と表現しましたが、私はこの言葉が気に入りました。そこで、料理を例にして少し考えてみたいと思います。たとえば、シチューという料理があります。世界中にシチューや煮込みといった料理がたくさんありますが、地域の食材を反映してさまざまなシチューがあります。そして、同じシチューでもシェフによってレシピが違います。同じシェフでも日によって微妙に味が違うでしょう。また、シェフだってシチューを作ろうと思って購入した食材を見ても、その日のお客さんや天気などを考慮して、まったく別な料理を作ってしまうかもしれません。こういうことが自由自在にでき、それをズバリと当てるのが名シェフでしょう。

モーツァルトは、ヨーロッパ中の音楽の素材を集めて、それを選別し、選別したものをまとめて、まったく違った地域と階層の観客に提供したのです。まさに音楽の名シェフです。そのサービス精神を宿した音楽だから、現代でもその心に聴衆が共感を覚えるのだそうです。レヴィン氏のお話に、なるほど!と思いました。
余談ですが、いくらよい音楽の要素でも、合わせ方を間違えると酷いものになるということです。これをセンスが悪いというそうです。また料理のことを考えますと、世界中にスープがあります。日本のスープの代表は味噌汁です。味噌汁はうまいですね。またお菓子のチョコレートはとてもおいしいですね。ところが、味噌汁にチョコレートを入れるのはまずいです。これをセンスが悪いというのだと思います。要素同士の「相性」はとても大切ですね。
また、レヴィン氏は、ブラームスを例にとって、ブラームスは、モーツァルトのような才能がゼロと認識したうえで、ひたすら謙虚に精進したから大成したということです。凡人は、まず凡人であることを認識し、謙虚に精進することが大切なのでしょう。凡人の私はこの言葉を大切にしたいと思います。



以上の、ジョブズモーツアルトの話を合わせると「天才」に必要な要素がわかります。
1.自分の専門分野に関する並外れた技術や知識。ジョブズはIT、モーツァルトは音楽。(知識力、経験力)
2.時代の雰囲気、社会、階層、地域を知る。時代の「コンテキスト」を知る。(マーケティング力)
3.コンテキストに合わせて、技術や知識を選択して、まとめあげる。ジョブズiPadモーツァルトフィガロの結婚。(パッケージ化力)

そして、上記の、システムインテグレーションの力というのも、この3要素が必要と思うのです。

最後に、私たち凡人の仕事力も実はこの3つの力が大切と思うのです。
1.学校で勉強したりして得た知識と経験。
2.職場や上司や組織の顧客を知る。仕事のコンテキストを知る。
3.コンテキストに合わせて、自分の知識や知恵をまとめてパッケージ化して、職場や上司、顧客に提供する。

いかがでしょうか?
こんなことを考えながら、私も凡人であることを認識して日々謙虚に精進して参ります。